パンデミックピボットを生きのびるには?ある企業が成し遂げた大改革
2021年の休暇シーズンを前に、Mural のマーケティングチームは困った事態に遭遇しました。経営陣が抽象的な課題を提示し、その解決策を導き出すための厳しい期限を設けたのです。
Mural はその 10 年の歴史の中で初となる買収を完了し、新たな市場カテゴリを確立させようとしていました。しかし、次のように多くの疑問を解決する必要がありました。新たなカテゴリはどう立ち上げればよいのか?そもそも、どんな分野を開拓するのか?その前向きな変化をどのようにしてお客様に伝えるのか?注目を集める大きなカンファレンスで CEO がこの変革について発表するまでに、どのようにして間に合わせるのか?
デジタルホワイトボードを提供していた Mural は、こうした経緯からコラボレーティブインテリジェンス企業となりました。
このストーリーは、急速に変化する革新的な企業による共創や達成をご紹介する、The Workback シリーズの一部です。
「スタートアップ企業では、[これから起こる大きな変化] に関する噂が聞こえてくるものです。経営陣やリーダーが、すでに話し合いを始めているからです。」と、Mural の統合マーケティング戦略部長の Jessica Zech 氏は Asana に語ります。「そして [その変化] は、やがて私たちにも伝わってくるのです。」
2011年に Mariano Suarez-Battan 氏、Agus Soler 氏、Patricio Jutard 氏によってアルゼンチンで設立された Mural は、デジタルホワイトボードの会社としてスタートしました。10 年以上も前にこの創業者たちが考えたのは、「どうすればビジュアルコラボレーションが簡単になるだろうか?」ということでした。
会社が成長していく中で、競合他社の数も増えていきました。コロナ禍に入るとその数は急増し、それまで組織図に注力していたテック企業がホワイトボード事業に参入し、UX デザインの会社もホワイトボードを始めました。誰もが自宅で働くようになり、これまでクリエイティブコラボレーションの会議を対面で行っていた業界で、デジタルホワイトボードの人気が爆発的に高まったのです。
多くの人々がリモートで共同作業するためのソリューションを探していて、Mural はいつの間にか激戦区に身を置いていました。
どうすればビジュアルコラボレーションが簡単になるだろうか?
コロナ禍では、あらゆる種類や規模のビジネスが、新たなニーズに合わせて、会社の改革や方向転換を行いました。Mural でも、個人の生産性は上がっているのに、チームの生産性が急激に下がっているという話を受けて、改革が行われました。チームの生産性の問題はリモートワークへの急激な移行により、ビデオ通話やチャット、メールで会話する以上のコミュニケーションが難しくなったことに起因していました。これに対処するためには、理解を深め、問題を解決し、イノベーションを起こすための強いつながりを築く必要がありました。
Mural のリーダー陣はサンフランシスコに拠点を置くコンサルタント会社の Play Bigger と提携し、市場のニーズに合致した新たなカテゴリの開発や、そのニーズに合わせた製品やビジネスの戦略的な調整に関するサポートを受けました。この数年にわたる戦略を適切に実行すれば、理論的には何もなかったところに新たな需要が生まれ、新たなカテゴリを生み出した企業として、他社と差をつけることができるという目論見です。
そこで立てた目標は、「Mural はデジタルホワイトボードツールの会社から、コラボレーティブインテリジェンスの会社へと転換する。自社のデジタルホワイトボード技術と、Luma Institute の意思決定フレームワークを組み合わせて、コラボレーションとイノベーションを支える手法やメソッドを顧客に提供する。」というものでした。
つまり、Mural は頭脳を持ったホワイトボードになるということです。
「コラボレーティブインテリジェンスは、チームの共同作業を改善したいというニーズと、それを行うための場所が欲しいというニーズから生まれました。」Mural が「コラボレーティブインテリジェンス」という新たなカテゴリを作った理由について、Zech 氏はそう語ります。
Mural のチームは、チーム間の高い透明性、ハイスピードな共同制作、宗教的なまでの組織への献身が求められる変革を始めようとしていました。マーケティングチームがそれを期限までに成し遂げることができるかどうかは、まだ定かではありませんでした。
毎年 3月にロンドンで雑誌「The Economist」が主催するカンファレンス「Innovation@Work」では、企業の創設者やジャーナリスト、CTO、その他の戦略的思考家たちによって、職場文化の変革という進化し続けるトレンドに関するトピックについて講演が行われています。
Mural の CEO、Suarez-Battan 氏は、2022年 3月 28日の現地時間午後 4時 10分のスピーチで、Mural が Luma Institue を買収し、新たなカテゴリを設立するというビッグニュースを発表することになっていました。
Suarez-Battan 氏はまず、Autodesk が箱売りのソフトウェア企業からクラウドソフトウェア企業へと移行する際に、事業を再編成しなければならなかったというエピソードについて話しました。その際、学習体験やデジタルリソース、認定プログラムなどを通して、協力して問題を解決できる人材を育成する Luma Institute と、Autodesk は手を組みました。
Luma にとっての成功は、チームがより速く、よりよい決断を行えるシステムが出来上がっていたことでした。
その日、その場にいた人々は Suarez-Battan 氏の話の流れを予期していました。Mural はその前日に、Luma とその講座、認定プログラム、意思決定モデルなどの IP を買収したことを発表していたのです。
「私たちは Mural の内部システムとして Luma を導入し、コラボレーションデザインのシステムを展開します。」と、Suarez-Battan 氏は集まった観客に伝えました。
Mural はチームが一緒に働く場所と手段を変えるために、自社のホワイトボードと組み合わせる必要のある技術や知識を獲得しました。
Leah Taylor 氏がカテゴリ作成における企業の改革をサポートする Play Bigger から電話で連絡を受けたのは、Suarez-Battan 氏がロンドンで 30 分の基調講演を行う数か月前のことでした。自身が運営する広告代理店の Cast Influence で Mural のコンサルタントを担当していた彼女は、これから起ころうとしている変化を感じていました。
「Mural はこれまで 10 年以上の間、ビジュアルコラボレーションの最前線にいました。」と、Taylor 氏は言います。「Luma の買収と新カテゴリの導入によって、Mural は確実に他社と差を付けました。」
3 年間 Mural と密接に連携してきた PR のプロとして、Taylor 氏はいくつか当然ともいえる疑問を持っていました。そこでこんな質問をしたそうです。Mural に Luma のシステムをどのように統合するのか?この件について、メディアやアナリスト、スタッフにはどのように伝えるのか?Mural と Luma の顧客に、コラボレーティブインテリジェンスの機能をどのように提供するのか?
Taylor 氏は、自分がすぐに行動に移したことを振り返ります。「その時は、『わかりました。すぐに準備します。これはできるだけ早く取りかかったほうがいいでしょうから』という感じでした。」
新規カテゴライズのプロジェクトには事業のあらゆる部分が関与しますが、会社のアイデンティティに関する人々の認識を変える上で、PR とマーケティング活動は非常に重要な要素であると言えるでしょう。
「取引はまだ完了していませんでした。」
Mural は、ウェブ検索やディスプレイ広告、ウェブサイトの登録ページなど、いつものチャネルで有料広告を出し、会員やステークホルダー全員にメールを送ってこのニュースを正確に伝えなければなりませんでした。最後に、Mural のアプリ内でもこのニュースを伝える必要がありました。
マーケティング、ウェブ、クリエイティブ、デジタル、イベント、PR の各チームがこの Mural の大改革に関する発表の詳細をすべて決定し、長いプロジェクトが終わりに差し掛かろうとしていた頃、そこには静かな空気が流れていました。
少し静かすぎるくらいでした。
「発表の一週間前ぐらいだったと思います。」と Zech 氏は語ります。「[Luma] の買収は、まだ終わっていなかったのです。」
「取引はまだ完了していませんでした。」
チームはおよそ 3 か月を費やし、買収の発表にまつわる計画を練っていましたが、その発表が行えるかどうかはわかりませんでした。
Zech 氏は Mural が新規カテゴリのリリースの一環として Luma を買収したことを発表できない場合、何が発表の目玉になるのだろうか、と考えていたと言います。
「『発表できるのかできないのか』という、非常に恐ろしい期間でした」と、Zech 氏は振り返ります。
Mural の PR コンサルタント Taylor 氏は、双方が買収取引におおむね同意していたものの、あと少し残った細かい部分を確定させなければならなかったと言います。両者のサインが得られるまで、発表はできません。
「本当に発表の一週間前までは、買収が間に合うかどうかわかりませんでした。」と Taylor 氏は言います。
Mural の統合マーケティング戦略部長の Jessica Zech 氏は、ロンドンでの CEO の基調講演でその努力が報われた瞬間のことはあまり覚えてないと語る一方で、Taylor 氏はとても安堵したと話します。
「『発表できるのかできないのか』という、非常に恐ろしい期間でした」
Zech 氏にとって、嬉しかったのは買収のニュースを伝えるランディングページでメール購読を申し込む人が増え始めたときでした。「ランディングページのアクセス数が大きく増えたときは本当に嬉しかったです。『Principles of Collaborative Intelligence (コラボレーティブインテリジェンスの原理)』も多くの方にダウンロードしていただけました。それを読んで、皆さんに自分のチームにとっての [コラボレーティブインテリジェンス] について考えてほしかったのです。」
また、ウェブサイトのトラフィックをオーケストラの演奏に例えたのは、Zech 氏が初めてかもしれません。
「トラフィックはまるでシンフォニーです。多くの人が協調して、何かをある瞬間に実現させるのです。」と Zech 氏は語ります。「そしてうまくいけば、美しい音色が奏でられます。」
PR やマーケティングの世界では、認知度が成功の大きな指標となります。ターゲット層の注目が集まり始めたとき、Taylor 氏と Zech 氏は安堵のため息をつきました。
「その時は『よかった、うまくいった。なんとか本当に成功させて、注目を集めることができた』と思いました」と、Taylor 氏は言います。
「まるでシンフォニーです。」
成功を示すもう一つの外部指標が、Computerworld による報道でした。その読者層から Mural にとって重要なメディアである Computerworld は、Mural の発表についてこのように報じました。「コロナ禍で急成長を遂げたコラボレーションソフトウェア企業が、初の大型買収と、チームのイノベーション能力を高めるコラボレーティブインテリジェンスシステムのリリースを発表」
新規カテゴリの立ち上げが終わり、Zech 氏と Taylor 氏はプレッシャーの中で行った挑戦について、率直に語りました。Mural を創業者たちの作った新たなカテゴリのリーダーとして立ち上げ、宣伝するという大変なプロジェクトの感想を尋ねたとき、Zech 氏が使ったのは「ぞっとした」という言葉でした。
「でも、最終的な結果はすばらしいもので、本当に誇れる成果が得られたと思います。」と付け加えました。
「本当に大変でした」と Taylor 氏は振り返ります。「私たちのキャリアの中でも一番長く、苦しい数か月間でした。全員が、3月 28日までにすべてを終わらせるために毎日休まず働いていました。Taylor 氏は、プロジェクトマネジメントと明確性、透明性については Mural のプラットフォームと Asana のワークマネジメントアプリに助けられたと話します。チームは Asana のアプリを使ってさまざまなタスクを割り当て、毎日、または毎週のミーティングでその進捗を把握し、Asana の受信トレイでリアルタイムの進捗情報も共有していました。また、情報共有に Asana の自動化機能も利用していました。(Mural は Asana, Inc. のお客様です。)
「おそらく、私たちのキャリアの中でも一番長く、苦しい数か月間でした。」
今回のような挑戦で、期限が与える影響について尋ねると、Taylor 氏は期限は努力とイノベーションの原動力だった、と答えました。「迫り来る期限がなければ、このプロジェクトを成し遂げることはできなかったかもしれません。」Taylor 氏は、このプロジェクトのスコープが膨大で、期限も厳しかったことから、チャットでは火事の中「This is fine」と言う犬のミームが流行ったと、笑い話として語りました。
「緊急性が、私たちにこの困難な状況を切り抜ける力を与えたのです。個人的な期限があったり、その緊急性を感じるチームにいたりすれば、そのために一生懸命になるものです。」